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広島地方裁判所 昭和42年(ヨ)450号 判決 1968年2月14日

申請人 吉岡斉

被申請人 広島化成株式会社

主文

本件申請をいずれも却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

事実

申請人代理人は「申請人が被申請人に対し労働契約上の権利を有することを仮に定める。被申請人は申請人に対し昭和四二年一一月一三日以降一箇月金四八、五三五円の割合による金員を毎月五日限り支払え。」との裁判を求め、その理由として次のとおり述べた。

一、被申請人会社は肩書地に本店を有し、ゴム履物、ゴム工業用品、化成品等を製造する会社であり、申請人は昭和二七年一〇月七日右会社の従業員として雇傭されたものである。

二、被申請人会社は、昭和四二年九月一六日付内容証明郵便で、申請人に対し、就業規則第六一条の止むを得ない事由に基づき解雇するとの意思表示をなした。

三、しかしながら、右解雇の意思表示は左記の理由により無効である。

(一)  被申請人会社のいう解雇理由は「申請人が昭和四一年五月二五日ごろ、福山市西桜町所在備後ホテルで、被申請人会社女子従業員甲野花子(仮名、以下同じ。)を強姦した。」というものである。しかし、申請人は被申請人会社主張の日時、場所において、当時被申請人会社の女工であつた甲野花子と会つたことはあるが、申請人は甲野花子に対し、強姦はもちろん性交関係をもつたことはない。当時申請人は被申請人会社従業員労働組合の組合長をしていた関係上、友人として交際していた甲野花子と会うのを他人に見られるのは双方ともに好ましくないとの判断から右の場所を利用したに過ぎない。

ところが被申請人会社は、すでに被申請人会社を退職し、郷里の愛媛県西条市の実家へ帰つている甲野花子のもとへ数回にわたつて訪れ、強姦の事実をねつ造し、甲野花子本人による告訴は親告罪の告訴期間が経過していたため、甲野花子の父甲野太郎(仮名、以下同じ。)をして、法定代理人父甲野太郎名義で昭和四二年九月九日広島地方検察庁福山支部へ申請人が甲野花子を強姦した旨の告訴をなさしめた。

右告訴については、昭和四二年一〇月二八日同支部において、告訴無効による不起訴の裁定がなされた。

被申請人会社は申請人と甲野花子との関係がかりに強姦でないとしても、妻子ある者が女子工員と情交関係を結ぶことは許されないと主張するところ、前述のとおり、申請人は情交行為も全くなしていないのであるが、かりに右事実があつたにしても、従来より男女間の規律につき、さほど厳格な態度をとらず、以前この種事案においても、解雇をもつてのぞまなかつた被申請人会社が、甲野花子を妊娠させたわけでもない申請人に対し、右事実をもつて、解雇するのは違法ないしは解雇権の濫用というべきである。

被申請人会社は本件が公表され、被申請人会社女子従業員に対する影響が甚大であることを解雇理由としているが、しかし本件は昭和四二年九月一一日被申請人会社が被申請人会社労働組合役員に通知するまでは、被申請人会社従業員の全く知らなかつたことであり、翌一二日に被申請人会社社長自ら職場、組合役員及び被申請人会社の職制にふれまわり、同月一六日午後五時被申請人会社の職制全員五〇名を会議室に集めて、これを説明し、同日午後六時三〇分ごろより、被申請人会社女子寮に赴き、寮生約二五〇名に対し、同様の説明をしているのであつて、もし本件によつて、女子従業員の募集が困難になるとするならば、それは被申請人会社自ら招いたもので、なんら申請人の責任ではない。

(二)  被申請人会社が被申請人会社企業秩序の維持と無関係な私的非行行為をねつ造して、申請人を解雇しようとする真の意図は、申請人の活溌な労働組合活動を嫌悪し、その報復手段として本件解雇をなそうとするものである。すなわち、広島化成労働組合は被申請人会社従業員約二、〇五〇名中約一、五五〇名をもつて組織された労働組合であり、総評ゴム労連に属し、労働条件の維持、改善のため団体交渉、ストライキ等の行為を継続してきたものである。申請人は昭和二九年右労働組合の職場委員、昭和三〇年副組合長、昭和三一年執行委員、昭和三二年大会議長、昭和三八年から昭和四二年まで引続き組合長として、組合の最高指導者をつとめてきたものであるが、右組合活動は申請人が組合長となつた昭和三八年以降従来の温健主義を脱却して活溌な闘争を展開するに至つた。特に、昭和四二年八月四日より同月一九日まで、労働協約の締結をめぐつて、全面スト、部分スト、無期限ストを行い、被申請人会社はこれに対抗して、ロツクアウトを行うという事態にまで発展した。そのため、被申請人会社は左記の如く、種々組合に対し、懐柔工作をなしてきた。

1  昭和四一年二月一三日ごろ、東京都上野の旅館において、被申請人会社社長が申請人らに対し、今後よろしく頼む、といつて一〇万円を渡した。しかし、申請人はこれを返還した。

2  昭和四一年三月一〇日ごろ、被申請人会社第二工場内において、被申請人会社猪原総務部長が藤坂博主任を通じ「組合長は中央へ出張しても、他の人と充分つき合いができないといつていたので」といい、服地を申請人に渡した。しかし、申請人はこれを返還した。

3  昭和四一年一一月一九日ごろ、広島県福山市本庄町汐入二九一番ホテル「箱根」において、被申請人会社社長が申請人に対し、五万円、門田副組合長に対し、五万円、金原書記長に二万円を渡した。しかし、申請人らはこれを返還した。

4  昭和四二年四月一五日ごろ、右同所において、被申請人会社社長がゴム労働戦線の話を聞きたいといい、その際、申請人に対し、小切手二枚を渡そうとした。申請人はこれを拒否した。

5  昭和四二年三月一四日付で申請人を履物事業本部第二工場製造部ロール課長に任命した。申請人は右就任を拒否した。

しかし、右のとおり懐柔工作が不調に終わるや、一転して、強硬政策として、本件解雇処分をなしてきたものであつて、右処分の意図は申請人の活溌な労働組合活動を嫌悪してなされた不当労働行為であり、したがつて、本件解雇は無効である。のみならず、被申請人会社は従来から活溌な組合活動をする申請人を含む組合三役を嫌悪しており、特に昭和四〇年と同四二年の春闘では、申請人所属組合が近隣の同種企業である早川ゴム及び福山ゴムより昭和四〇年は三〇〇円、同四二年は二〇〇円と各増加賃上げをしたことから、なんとかして右組合三役を失脚せしめんとして、しばしば、右組合幹部の姿勢につき、批判をしてきたところ、今回組合員をして右組合幹部の姿勢を批判させるべく、本件申請人の私行につき、理由なき宣伝をなすとともに、組合員に被申請人会社における職制上の地位につかせることを条件に、組合員に働きかけ、昭和四二年一一月一一日開催の組合大会で組合長の申請人及び副組合長門田幸雄、書記長渡辺佐十の組合三役不信任決議案を緊急動議させて、これを可決させ、組合に対する支配介入をなした。しかし、右組合大会の不信任決議は組合規約に違反し、無効のものである。

四、申請人は組合専従であつたが、被申請人会社の本件理由なき宣伝のため、自己の所属する広島化成労働組合へ迷惑を及ぼしてはならないとの考えから、昭和四二年一一月一三日付をもつて組合長を辞任し、組合専従を解かれたので、被申請人会社に対し、会社従業員としての身分復帰及びこれに伴う賃金の支払を求めたところ、被申請人会社はこれを拒否した。

申請人は被申請人会社から支給される賃金を生活の資源とする労働者であり、右賃金により妻及び二人の子供を扶養しているのであるから、申請人が被申請人会社の従業員として取扱われず、かつ右賃金の支給を受けないときには申請人の精神的経済的生活に重大な支障を及ぼすことになる。なお申請人の平均賃金は一箇月四八、五三五円であり、その支給時期は毎月五日である。

よつて、申請の趣旨記載の裁判を求める。

被申請人代理人は、主文同旨の裁判を求め、申請理由に対し次のとおり述べた。

一、申請人の本件申請中、申請人の労働契約上の権利を定める部分は、申請人の保護されるべき経済的利益がないから不適法として却下を免れない。

二、申請人の主張事実中、一、二の事実は認める。三の(一)の事実中、本件解雇の理由が申請人の強姦行為によるものであること、甲野花子の父甲野太郎が昭和四二年九月九日広島地方検察庁福山支部へ右強姦の告訴をなしたことは認めるが、その余の事実は否認する。三の(二)の事実中、被申請人会社の従業員数、広島化成労働組合の組合員数、右組合がゴム労連系であること、被申請人会社と右組合間に団体交渉、ストライキ、殊に昭和四二年八月四日より同月一九日まで、労働協約の締結をめぐつて、ストライキ及びロツクアウトのあつたこと、昭和四一年一一月一九日ごろ、福山市本庄汐入二九一番ホテル「箱根」において、被申請人会社社長が申請人に対し五万円、門田副組合長に対し、五万円、金原書記長に対し、二万円を交付したが、これが被申請人会社社長に返還されたことについては、いずれも申請人の主張どおり、これを認めるが、その余の事実は否認する。なお、前記ホテル「箱根」における金員の授受については、昭和四一年一一月中ごろ、被申請人会社総務部長より被申請人会社社長に対し、右ホテルで組合三役と面談して欲しいとの申入れがあり、同月一九日ごろ、同ホテルで、申請人らとの懇親会として夕食とマージヤンをした。ところが、門田、金原が入浴のため、その場をはずした際、被申請人会社社長が帰りかけると、申請人が社長に対し、我々も他組合及び支部団体の交際で費用がかさむので、自分はともかく、門田、金原に若干の金銭的面到をみて欲しい旨の申入れがあり、被申請人会社社長は手持金の中から前記のとおり各金員を交付したものである。

三、申請人は妻子のある者であるが、昭和四一年五月二五日ごろの午後七時ごろ、福山市西桜町所在の「備後ホテル」二階洋間において、被申請人会社女子従業員で同社松浜寮の入寮者であつた甲野花子を甘言をもつて、同所へ同行したうえ、暴力を振つて姦淫した。右事実のため、被申請人会社寮生間において、甲野花子が申請人のため懐妊し、堕胎した等の風評が流れたため、甲野花子は被申請人会社を退職し、郷里の愛媛県西条市に帰つたところ、同女の父甲野太郎は右強姦の事実を聞知するや、直ちに広島地方検察庁福山支部へ申請人を強姦罪で告訴するとともに、被申請人会社社長に対し、書面をもつて抗議の申入をした。

四、最近における従業員、特に女子工員の不足は報道機関の伝える以上に深刻なものがあり、被申請人会社もその例外ではなく、女子工員募集難のため、生産計画にそごをきたしている現状にある。被申請人会社女子従業員一名募集のためには、多額の経費を計上し、各地で従業員父兄会を開催し、被申請人会社女子従業員については、会社が責任をもつて保護していることを説明している。

しかるに、申請人は労働組合の組合長でしかも妻子ある身でありながら、未成年でしかも被申請人会社の寮生である女子工員を強いて姦淫したものであつて、右行為は被申請人会社の体面を著しく傷つけ、女子従業員募集に対する重大な妨害行為であるとともに、被申請人会社女子寮内の風紀をびん乱し、同寮内に第二、第三の犠牲者を出すおそれを発生せしめたものであり、またかりに申請人の行為が強姦でなかつたとしても、申請人は甲野花子と右「備後ホテル」における性交以外に三回、計四回の情交関係を有するものであつて、申請人の右行為は甲野花子との結婚を前提としない限り、被申請人会社の女子従業員の募集及び現女子従業員に与える影響が重大であり、被申請人会社の企業秩序の維持、業務の運営が阻害されるものであるから、申請人の右各行為はいずれにせよ、本来ならば被申請人会社就業規則第九八、第九七条の懲戒解雇事由に該当するのであるが、被申請人会社においては、寛大な措置として、同就業規則第六一条に基づいて申請人を通常解雇にしたものである。

したがつて、被申請人会社が申請人を解雇したのは申請人が正当な労働運動をしたことを理由になしたものではない。昭和四二年一一月一一日開催の組合大会で組合長の申請人及び副組合長門田幸雄、書記長渡辺佐十に対し、組合三役不信任決議案が緊急動議され、その結果申請人は既に昭和四二年一〇月二七日組合長を自ら辞任しているので、これを認め、門田副組合長、渡辺書記長については、不信任決議案が可決されたのであるが、右不信任決議による退任は困るからとのことで、それぞれ副組合長及び書記長を同日辞任したものであり、右は労働協約締結権を上部団体に一任してその任に答えず、また申請人の本件破れん恥行為に平然としている組合三役に対し、組合大会において不信任動議となり、これが可決したものであつて、申請人が主張する如く、本件解雇が申請人の労働運動をなしたことによるものだとすれば、組合が右不信任決議をすることはあり得ないことである。

五、申請人は相当な農家であるうえ、退職金五三九、七〇〇円及び解雇手当金四八、五三五円の提供を受けており、失業保険制度もあり、申請人が被申請人から賃金の支給を受けなくとも、いま直ちに生活に支障はない。

(疎明省略)

理由

一、被申請人会社が肩書地に本店を置き、ゴム履物、ゴム工業用品、化成品等を製造する会社であり、申請人が昭和二七年一〇月七日被申請人会社に同社の従業員として雇傭されたものであること及び被申請人会社が申請人に対し、昭和四二年九月一六日内容証明郵便をもつて、就業規則第六一条の已むを得ない事由に基づき解雇する旨の意思表示をなしたことは当事者間に争いがない。

二、成立に争いのない甲第一、第二、第三号証の各一、二、甲第四号証の一、甲第七、第九号証、乙第一号証、乙第二号証の一、二、乙第一〇号証の一、乙第一八号証、乙第一九号証の一、二、乙第二〇号証、被申請人代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと疎明しうる乙第五、第七号証、乙第六号証の一、二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと疎明しうる乙第八号証、証人三和田虎雄の証言及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が疎明される。

(一)  申請人(昭和七年一一月八日生、当年三五歳)は昭和二七年一〇月七日被申請人会社に製造部現場工員として雇傭され、その後昭和三八年六月二六日付被申請人会社労働組合組合長となり、組合専従のため同日付で休職、昭和三九年六月三〇日復職、右組合長のまま被申請人会社第二工場ロール課に工長として勤務中のところ、昭和四二年六月二六日付再び右組合長として組合業務に専従していたものであるが、その間昭和三三年一一月一日結婚し、長男(当年七歳)、次男(当年四歳)を有する者である。ところが、申請人は昭和四〇年一二月ごろ、被申請人会社女子寮に居住する被申請人会社の未婚の女工甲野花子(昭和二一年六月七日生、当年二一歳)と知り合い、同女と職場における作業の話、組合活動の話等を通じてねんごろとなり、互いに身上話等をするまでに至つたところ、昭和四一年五月二五日ごろ、申請人は福山市西桜町所在「備後ホテル」に同女を伴い、同ホテル二階洋間において、同女と情交関係を結ぶに至り、その後も同ホテルにおいて情交関係を結んだ。ところが、右の関係が被申請人会社女子従業員中に甲野花子が申請人に懐胎させられ、堕胎した如くにけん伝されたため、右甲野は昭和四二年四月五日付一身上の事由を理由として退職し、郷里の愛媛県西条市へ帰つた。

(二)  被申請人会社は、右風評を知つて甲野花子の元同僚等に事情を聴取し、また昭和四二年八月二四日愛媛県西条市所在の甲野花子宅を訪れて調査したところ、申請人が昭和四一年五月二五日ごろ、「備後ホテル」において甲野花子を強姦したとの結論に達したので、同年九月一六日、申請人に対する懲戒委員会を開催したところ、申請人を被申請人会社就業規則第六一条の規定により通常解雇に付するとの決論に達し、被申請人は同日申請人に対し、前示の解雇の意思表示をなすとともに、同月一八日解雇手当金四八、五二一円を提供したが、申請人においてこれが受領を拒絶した。

以上の事実が疎明され、甲第四号証の一、甲第六、第七号証、甲第一七号証の二、乙第一号証、乙第二号証の一、二、乙第一〇号証の一、乙第一八号証、証人門田幸雄の証言、申請人本人尋問の結果中、右認定に反する部分は採用しない。

三、成立に争いのない乙第三号証の被申請人会社就業規則第六一条に、「従業員が左の各号の一に該当するときは三十日前に予告するか又は三十日分の平均賃金を支給して解雇する一、精神若しくは身体に故障があるか又は身体虚弱若しくは疾病のため業務に堪えないと認めるとき二、已むを得ない業務上の都合によるとき三、その他前二号に準ずる已むを得ない事由があるとき」と定めてあることからすると、右解雇事由は従業員の非行を対象としたものとはいいがたいから、申請人の前記所為は右通常解雇事由に該当しないというべきであるが、右所為が従業員の非行を事由とする懲戒解雇事由に該当する場合は、これを懲戒解雇としないで、被解雇者にとり懲戒解雇より有利な通常解雇とすることは許容されると解するを相当とする。

そこで、申請人の前記所為が被申請人の就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するか否かにつき検討するに、申請人の前記甲野との情交が婚姻を前提とするものであつたとの疎明はなく、申請人が第二ロール課工長、労働組合の組合長として、指導的立場にありかつ妻子を有しており、一方甲野が未成年の女子工員で被申請人の独身女子寮に入寮中であつたこと及び前掲乙第一号証によると、前記情交は申請人が積極的にその機会を作出したものと疎明され、前示のとおり甲野が右事件を契機として退職したこと、真正に成立したと一応認めうる乙第一一ないし第一五号証、乙第一七号証の一、二、乙第二一号証、乙第二六号証、証人三和田虎雄の証言により疎明される被申請人会社がゴム履物、ゴム工業用品、化成品等の製造を業とし、従業員約二、〇五〇名を有し、作業内容、賃金政策上、半数弱は中、高等学校卒業の年少女子を雇傭しているもので、近時、右年少女子の就職希望者が減少の傾向にあるため、被申請人においてはこれが対策に重点的配慮をしていること、本件情交関係が被申請人会社の従業員父兄間に被申請人会社の風紀に対する不信感を与え、被申請人会社の女子従業員の確保に支障を及ぼすおそれのあることを考慮すると、申請人の所為は、前記乙第三号証の被申請人の就業規則中懲戒解雇事由の定めである第九七条第九号の「不正不義の行為を為し従業員としての体面を汚したとき」第九八条第一〇号の「前条各二号乃至第一一号に該当しその情状の重いとき」にあたると認めるのが相当である。そして、被申請人が本件解雇につき、就業規則第九九条所定の懲戒委員会の議を経ていることは前示のとおりである。

四、申請人は本件解雇が不当労働行為であると主張するところ、被申請人会社は申請人の活溌な組合活動を嫌悪し、種々申請人ら組合幹部に対し、懐柔工作を行つたことは疎明しうるが、以上説明したところと二掲記の各証拠並びに弁論の全趣旨によると、被申請人の本件解雇の決定的要因は、申請人の前記非行を理由とするものというべきであり、申請人の労働組合長であつたことまたはその組合活動が本件解雇の決定的要因となつたものとは疎明しがたい。

五、以上の次第で、本件解雇の無効を前提とする申請人の本件仮処分申請はいずれもその被保全権利の疎明がなく、右疎明に代え、立保証により仮処分をなすべき場合にあたらないと認められるから、いずれも却下すべきである。よつて、申請費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷川茂治 雑賀飛龍 篠森真之)

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